公開: 2023年3月14日
更新: 2023年4月9日
倫理学は、哲学の1分野で、「人はどのように生きるべきか」を考える学問です。そこでは、「善を為すとはどのようなことか」「善とは何か」「善はどのようにして決められるか」などの問題があります。「善を為すとはどのようなことか」は、古代ギリシャの哲学者、ソクラテスによって提起された問題です。「善とは何か」については、古代ギリシャの哲学者、ブラトンとアリストテレスが答えようとした問題です。そして「善とは何か」と言う問いに応えるために、プラトンは、イデア論を説き、アリストテレスは、中庸の思想を説きました。
宗教は、哲学が問題になる以前から、人類が共通に持っていた概念です。しかし、人類の文明が進歩するに従い、人間の意識が「死を恐れる」ことから、「いかに生きるべきか」に移りました。この時、哲学の倫理学と宗教との接点が意識され、同じ問題を、哲学者も宗教家も考え、議論するようになりました。特に、ヨーロッパにおいて、カトリック教会が成立すると、修道院を中心に、「神の存在」と「善く生きる」ことについて、深く考えられるようになりました。そのため、近世までの社会では、倫理学は宗教、特にキリスト教の教えと、切り離して議論することができませんでした。
それは、19世紀末までは、「絶対的な善」の存在が仮定されていたからでした。その「絶対的な善」を決めていたのが「神」であり、それを我々に教えるのが、宗教だったからです。しかし、20世紀に入って、人間には「絶対的な善」を知ることはできないとする説が出現しました。このことは、それまで宗教によって決められていた「絶対的な善」が否定され、不確実な人間の思考に基づき、「善」と考えられることから始めて、合理的な善の概念を作り出さなければなりません。それは、新しい形の宗教であるかも知れません。イスラエルの思想家、ハラリは、そのような新しい人類を、「ホモ・デウス」と呼んでいます。
ユヴァル・ハラリ著、「ホモ・デウス」(上・下)、河出文庫(2022)